After the message to Japanese readers, there is a message to English readers.
日本語読者の皆さまへ
こんにちは。先週は比較的暖かく春のにおいもし始めていたというのに、今週はまた真冬に戻ってしまいました。暑さも寒さもそれぞれに嫌いではないのですが、何事にも限度があるというのを知らせたいです。どこかに。
今週は「文学フリマで買っ(て読み終わっ)た本」の一本のみでお送りします。期末レポートと原稿とでめちゃめちゃに忙しいのでお許しください!
・文学フリマで買っ(て読み終わっ)た本
※内容に深く踏み込む場合があります。未読の方はご承知おきください。
①暴力と破滅の運び手『ブラームスの乳首』
ずっと前から読みたかった一冊。全篇(すこし盛りました。ほぼ全篇)がエッチな小説集なのですが、文章の運びがとても美しく、終わり方も爽やかであったり仄暗さを抱えていたりとがバランスよく配されていて大変好みでした。どれも短編としての完成度が異様に高く、一気に読んでしまいます。「笑い」を小説のなかに混ぜ込むことに恐怖心があるのですが(内輪の笑いになっていないか、なにかを見下すことで得られる笑いになっていないか、笑われる対象が実在していないか)運び手さんはその辺りの感覚も鋭敏でほんとうに凄いなと思います。純粋に小説として楽しんでいたら不意打ちで乳首や肛門が出てくる短編集が読みたい方は是非。
特に「牢主艶談」「気楽に出そうよ」が好き。
ベッドのサイドテーブルに置いて眠ったことを忘れており、起きたときに本棚になかったので実家暮らしの身は一ヶ月分くらいの冷や汗をかきました。
②一部を読んだ2冊(井上彼方・編『私・からだ・社会についてフェミニズムと考える本』/生活の批評誌No.5『特集=「そのまま書く」のよりよいこじらせ方』)
フェミニストとしても表現者としても勉強が足りていないことを痛感する日々ですが、この2冊がわたしを一歩前へ進めてくれたような気がします。気になっていた箇所から読み進めたため全部に目を通せたわけではないのですが、特に良かったオーガニックゆうき「龍とカナリア」と座談会「フィクションと『そのまま書く』がともにあるために」について。
「龍とカナリア」は途中まで純粋にSFFとして楽しんでいたのですが、からだとジェンダーにまつわる小説世界の仕組みが明かされた瞬間、これまでの一文一文の意味が嘘のように色を変えたのがとても印象的でした。もちろん、奇声を上げながらもう一度最初から読み直しました。性にまつわるディストピアSFの古典たちが乗り越えられなかった壁をも切って進んでいくような最後が、沖縄と日本の関係を思わせる設定や立ちのぼるにおいや景色のみずみずしさが、それゆえに短編でありながら万華鏡のように読む人によって姿を変えるであろう力強さが、とても良いです。
座談会「フィクションと『そのまま書く』がともにあるために」は、井上彼方さん、オーガニックゆうきさん、依田那美紀さんの座談会。フィクションに携わるものとして必ず避けては通れない葛藤を解きほぐしたりやっぱり結んだりしながら言葉にしていく様に、背筋が伸びるとともにとても勇気づけられました。作家として、編集者として、翻訳者として、そして読者として、常にこの座談会を思い出したいです。
③依田那美紀『シスターフッドって呼べない』
フェミニストである筆者がまさにフェミニストとして、自らのなかのミソジニーを見つめるZINE。「はじめに かんたんに連帯しちゃえるわたしたちの正しい後悔のために」が素晴らしかったので、一部を抜粋してここに引用します。
それでも私は、女が、社会への違和感やおかしさを語り合う時の、女に対して向けている無批判な笑顔や、差別や不平等に怒っている女たちへの迷いのない賛意の表明の間には、もっともっと、ためらいが差しはさまれてもよいと思う。(中略)私たちの本当の連帯は、これまであんなにも傷つけ合い、見下しあい、競い合ったあの過去を、語り合い、認め合い、あの時のふるまいを全うに後悔した先にあるのではないか。
男性中心主義社会で用意された物差しで女性を傷つけたあの日のことを、まるでそんなことなかったかのように女性たちに連帯してきた日々のことを、思い出しました。書かれているのは筆者の過去のみですが、同時にわたしの過去をも引きずり出すのです。生まれたときから記憶にあるかぎり女性であることに疑問や嫌悪感を抱いたことがありませんでした。そのことがむしろ罪悪感になってきた、とも言えるでしょう。だから筆者の過去と重なる部分、共感できる部分はほとんどありません。でも、それは重要ではないのです。
理想や正しさと、自らのなかの不正との矛盾に切り裂かれつづけるフェミニストでありたいと思ってきました。でもふと気が付けば、過去の自らのミソジニーをなかったことにして、他者のなかに潜むミソジニーばかりを取り上げている。世界を前に推し進めるためにまずはそんなわたしの無知や妄信や愚かさを後悔していきたい、わたしもいつかわたしの言葉でわたしのミソジニーを語らなけばならない。そう思えたことが何より重要なのだと感じます。
京都文学フリマ、本当に行ってよかったです。
明日からは十年に一度の大寒波とのことですので、皆さまできる限りあたたかくしてお過ごしください。滅多に雪のふらない地域に住んでいるわたしは、十年前の大雪の日の写真を取り出してはほくほくしています。
For English Readers
Hello. Japan is experiencing a cold season, which is said to be the coldest in 10 years, and I hope all is well in your area. Whether you are from a cold region or not, please sleep well, eat well, and stay healthy.
・Jesmyn Ward
The Japanese translation of Jesmyn Ward's Where the Line Bleeds was finally released last month. Sing, Unburied, Sing and Salvage the Bones had already been released in Japanese, and I had fallen in love with the author, so I was really looking forward to this release.
In conclusion, this debut work was another great piece of work. I believe that one of the great things about Jesmyn Ward is the style of writing and drawing in which the "voice" of the characters and the land can be heard. Of course there are themes of poverty and inequality, but the description of scenes from the American South seemed to bring back the smells, the wind, and even the sparkle of the spray, and I read the book in one sitting.
If you haven't read it yet, you really ought to!
Thank you again for reading my newsletter this week, and see you next week.